土の匠 対談集Vol.2
土の匠 対談集
Vol.2 株式会社DGCテクノロジー 代表取締役 櫻本様(農学博士)
土壌分析から見えてくる未来の農業
「土壌微生物多様性・活性値」とは?
ヤードウエスト浜松(以下YW):御社は、土作りの新たな指標として「土壌微生物多様性・活性値」を提唱されています。
豊かな土壌は「化学性」「物理性」「生物性」の3つが重要になりますが、客観的なデータとして数値化するにあたり「生物性」の研究は遅れていた印象があります。堆肥の主たる施肥目的は土壌の「物理性」「生物性」を改善することですが、「生物性」を改善すれば結果的に「物理性」の改善につながります。したがって、我々は何よりも「生物性」を重視したいと思っているのですが、客観的なデータとして表示できなかったため堆肥の品質を担保できませんでした。
そこで早くから御社の技術に注目し、今も実際に堆肥やお客様の土壌分析をお願いしております。まずはこの「土壌微生物多様性・活性値」についてどのようものか、また確立した経緯を教えてください。
櫻本様:土壌微生物多様性・活性値は、微生物群集の有機物分解能力の多様性と高さを数値化したものです。95種類の異なった有機物(微生物のエサ)が入った試験用プレートに、サンプル土壌を入れて、専用のロボットで15分間隔、48時間連続的に、各有機物が分解される速度を調べます。土壌微生物を個々に調べるのではなく、土にいる微生物全体でどのように有機物を分解できたかという結果に着目することで、土壌の生物性を客観的に評価します。
20数年前に全国の大産地で連作障害が問題になる中、薬剤以外の方法で土壌病害を抑制する方法がないかということで、元農研機構の横山博士や新潟県、長野県、岐阜県、石川県、サカタのタネさんなどの研究所職員が研究を行い、長い年月をかけて見出された方法があり、それをもとにして、弊社が現在の技術を実用化しました。
YW:今おっしゃった連作障害の対策としてしっかりと「土作り」を行うことが大切ですね。農業は「土作り」が重要なのは皆が認めるところですが、一方で「土作り」とはファジーな部分があると思います。
堆肥のようなものを入れたら土作りになるのか、と。たとえば未熟な家畜ふん尿や生ごみのような堆肥もどきをドカドカ入れて「堆肥を入れているので、土作りをしっかりしています」と言われたら、「ちょっとどうなの?」と思うところもあります。
そこでウチとしては「From Farm & Soil ,to Wellness~おいしい野菜は土作りから~」という価値の連鎖を創造していく中で、土作りにもエビデンスを、と考えています。その物差しとなるのが、御社の技術だと考えています。
そのあたり、特に土作りについてはどのような見解をお持ちですか?
「もっともっと持続性農業がビジネスとして自立していくようなお手伝いがしたいですね」とDGC 櫻本様
櫻本様:おっしゃる通りで、未熟な家畜糞、食品残渣などの投入は特定の虫や微生物が増加し、生態系のバランスを欠くようになります。また窒素飢餓や塩類集積を引き起こす可能性があります。
すなわち、かえって土を壊す原因となりますので、堆肥という名目のもとに田畑を産業廃棄物の処理場とするやり方は絶対に避けるべきです。
土作りは生態系サービスを効率よく発揮させることで、植物によりよい環境をもたらすことを目指すと考えています。生態系の基盤となる土壌微生物のバランスを考えることが大切で、その為には質の高い堆肥、弊社の技術でいえば「土壌微生物多様性・活性値」の高い堆肥を使用するべきだと思います。
YW:我々は労力を惜しまず、時間をかけて熟成した堆肥を今後も作っていきたいと思いますので、御社の技術で「土作り」を見える化できることはありがたいことです。生態系の基盤を作っていると考えれば、新たなやりがいにも繋がります。
櫻本様:私たちも堆肥を真面目に作る企業がもっともっと増えて欲しいと思っているので、是非頑張っていただきたいと思います。
持続的な農業経営とは
YW:ところで、「From Farm & Soil ,to Wellness~おいしい野菜は土作りから~」とは我々グループ企業が価値を創造していくキャッチコピーになっています。今後健康寿命の延伸が重要な課題になる中で、おいしくて体に良い野菜をどのように生産し、供給していくか、ということです。そこでお聞きしたいのですが、「土壌微生物多様性・活性値」は野菜の味や栄養価、収量、品質などと何らかの相関関係があるのですか?
櫻本様:非常に難しい質問ですね。品質が上がることはまず間違いないと思います。ただし収量についていえば、短期的な収量を上げようと思えば化学肥料のみを使用した方が良い場合もあるので一概には言えません。特に葉物野菜はそうですね。しかし中長期的に農業経営を安定させるためには、「土壌微生物多様性・活性値」の高い土壌にしていくことはとても大切です。
①病害が減るので農薬費が削減できる、②保肥力が高まるので肥料代が削減できる、③連作障害のリスクが低減し毎年の収量が安定する、④周辺生態系を保全するので生態系サービスをより多く享受できるというメリットがあるからです。
味との相関についても、品種によりますし、また「おいしい」とは各人の主観に基づく部分も多いので、慎重に考えるべきです。
ただし実際に「土壌微生物多様性・活性値」が高い畑で収穫された野菜は色つやが良く、みるからに「元気な野菜」だと感じます。
肌触り、風味、食感がやっぱり良いなと感じますし、えぐ味も少ないと思います。
私たちも「土壌微生物多様性・活性値」が高い畑で栽培された野菜をSOILブランドとして販売していますが、ファンが付くことが多いです。
(株)DGCテクノロジー本社研究農場にて
YW:最後に御社の事業を通じて、成し遂げたい夢はありますか?
櫻本様:もっともっと持続的農業がビジネスとして自立していくようなお手伝いがしたいですね。私は、持続的農業は経済と環境保全を両立する唯一の産業だと思っています。
自立した持続可能な農業をしていくことで、本当の意味で農業が普及し発展していくと。それに伴って周辺環境の生態系も保全されて美しい景観が維持されます。その美しい農村風景には、リラクゼーション効果もあるしアグリツーリズムという観点から観光にもつながります。
「おいしい食べ物は人を豊かにし、保全された自然環境は人間を生きやすくする」が私の信条です。世界の食糧問題も環境問題も待ったなしの課題です。この持続可能な農業を通じて、世界中の土を良くしたいというのが私の夢ですね。
YW:農業(Agriculture)は、唯一Cultutre(文化)がその名前に入る産業です。Cultureは「耕す」を表すラテン語colereに由来し、初めは土地を耕す意味で用いられたそうですが、英語に入り次第に「心を耕すこと」の意味で使われるようになったと言われています。土作りをしっかりと行い、持続可能な農業をして生態系を維持していくことは、おっしゃるように美しい文化を守ることに繋がるのだと思いました。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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